近年、新型コロナウイルス感染症の流行などにより感染症対策についての意識が高まっています。多くの人がマスクを着用し、アルコールなどの消毒剤を使用して感染症の対策を日々行なっております。
しかし、アルコールによる消毒は、臭いや刺激性があったり、肌が荒れてしまったりすることも少なくはありません。
そこで、このような状況を解決してくれる可能性のある消毒液として、現在注目されているのがPHMBです。PHMBは非刺激性でありながら様々な病原菌やウイルスに対して有効です。さらに、安全性と有効性を高いレベルで両立しているため、世界の30ヵ国以上で使用されています。
今回は次世代の除菌成分であるPHMBがどのようにウイルスを除去するのかについて解説し、アルコールなどの従来の消毒剤とどのような違いがあるのかついてみていきます。
まずは、ウイルスというものがどのようなもので、どのような構造を持っているかについてみていきましょう。
ウイルスは遺伝子である核酸(DNAやRNAのこと)を中心に、その周囲をタンパク質の殻で包む構造であるカプシドを持っています。そして、この核酸とカプシドを合わせたものをヌクレオカプシドといいます。なお、このヌクレオカプシドをさらにエンベロープという外膜が包んでおり、これがウイルスの構造となっています。
ウイルスがヒトに感染するときのメカニズムもみていきましょう。ウイルスのエンベロープがヒトの細胞に融合することでヌクレオカプシドがヒトの細胞内に入っていきます。簡単にいうとウイルスの遺伝子がヒトの細胞内に送り込まれるということです。送り込まれた遺伝子を使ってヒトの細胞の中でウイルスが増殖し、最終的にはヒトの細胞内に多数のウイルスが存在する状況になり、そのウイルスは細胞の壁を破って外に出てきてさらに他の細胞に侵入してということを繰り返します。
ウイルスを不活化するためには体内に侵入する前にウイルスの構造を破壊し、ヒトの細胞内に遺伝子を送り込む力を失わせる必要があります。
では、PHMBはどのようにウイルスに作用して不活化させるのかについてみていきましょう。ウイルスの構造は先ほど示したように、エンベロープという外膜によって囲まれた構造をしています。このエンベロープを破壊してしまえば、ウイルスの構造を壊すことができます。
また、ウイルスのエンベロープはマイナスの電荷を持っており、プラスの電荷を持ったPHMBが近づくと異なる電荷同士が引きつけ合います。そして、PHMBとエンベロープが結合するとエンベロープは構造を保てなくなることで、エンベロープは崩壊してしまい、ウイルスはその構造を保つことができなくなります。こうなるとヒトの細胞内に侵入することができなくなってしまい、病原性が失われるのです。
このようにPHMBはウイルスの構造自体を破壊するため耐性ウイルスを作り出すこともなくしっかりと消毒をすることができます。
消毒剤として最も使われているアルコールと比較してPHMBはどのような特徴があるのかみていきましょう。
アルコールは様々な菌やウイルスに有効で、比較的安価に手に入るという点では優れた消毒液であり世界中で使用されています。しかしながら揮発性が高いため、人によっては揮発したアルコールを吸い込むとアルコール過敏症などを引き起こすことがあります。また、多量に吸い込むと過敏症でなくても吸入毒性があります。
また、油分を飛ばしてしまうことにより手指の消毒の際に手が荒れやすいという特徴があります。アルコールの消毒は一定の濃度(おおよそ70%)がなければ効果をはっきしないため、水を含む場所でのアルコール消毒は効き目がありません。また現在、新型コロナウイルス感染症の流行により、よく店舗やオフィスの仕切りとして使われているアクリル板などの樹脂に、アルコールが付着すると腐食してしまうという特徴があることから、アクリル板はアルコールで消毒することができません。
一方でPHMBは、非刺激性で揮発しにくいため、たとえ吸入しても体に悪影響を引き起こす可能性は低いという特性があります。また、水中でも消毒効果を発揮するため、水の消毒にも使われています。
さらに、アクリル製品を腐食させないため、店舗やオフィスに置いてあるアクリル板の仕切りの消毒にも気兼ねなく使うことができます。
非刺激性の成分であるため人体にも毒性がありません。多くの優れた特性を持ち、かつ人体に対して安全で消毒の性能も十分にあるという非常に優れた消毒剤としてPHMBは重宝されているのです。
PHMBは様々なウイルスに対して有効であることが示唆されています。
大腸菌、サルモネラ菌などの細菌類やインフルエンザウイルスやロタウイルス、ノロウイルスなど様々な菌やウイルスのモデルとして、使用されるネコカリシウイルスに対しても強い不活化作用を有するということが、グラスゴーカレドニアン大学の実験によって明らかにされています。
以上のこともふまえると、PHMBはアルコールよりもさらに多くの種類のウイルスを、不活化することができると多くの実験で示されています。
このように多くの細菌やウイルスに対して有効であることから、日用品や施設などの日頃の消毒にもPHMBは使用されています。
代表的な例としてはコンタクトレンズの消毒液です。目に入るものを消毒するので、当然刺激があると使えません。だからといって、効き目までマイルドだと目の中に細菌が入ってしまう危険性があるため、コンタクトレンズとして使い物にならなくなってしまいます。
そのため、非刺激性であり、高い消毒性能を両立しているPHMBは、コンタクトレンズの消毒液として有用であるといえます。
また医療の領域でも、PHMBが使用されていて、アカントアメーバによる角膜炎の患者さんに対してPHMBの点眼を行なった結果、治癒したという症例報告もされています。
さらに、温泉施設の消毒でもPHMBは使用されています。水中には様々な病原菌が存在しています。そのため、温泉で消毒などを怠っていると、レジオネラなどの危険な病原体が増殖し、感染症の危険性が高まります。
そこで、温泉のような水気が多い環境を消毒するためにはPHMBのような水中でも効果を発揮する消毒剤を用いる必要があります。したがって、安心して温泉に入るために、PHMBが日々感染症から私たちを守ってくれているのです。
今回は次世代の消毒成分であるPHMBについてご紹介しました。
PHMBとはウイルスの構造のなかで、最も外の外膜であるエンベロープを破壊することによりウイルスを除去する薬剤です。
また、特性として人体に刺激を与えず、かつ様々な病原菌に対して有効性を発揮します。
さらに、その用途は多岐にわたり、工業での利用から生活用品などの私たちの身近なところにまで様々なところで使用されています。今後も多くの用途で使用されていく消毒であるといえるでしょう。
今後も感染対策がまだまだ重要な時期が続くと思われ、安全で性能の高い消毒液の必要性はますます高まっていきます。
これからもPHMBなどの消毒液を利用して感染症から身を守りましょう。
こちらの記事でもPHMBが紹介されています。